陰陽連絡線で中国山地縦断の旅
計画
中国地方には山陽と山陰を繋ぐ陰陽連絡線が数多くある。一本の路線で南北を結んでいる線もあれば、中国山地に中継点を設けて、複数路線で斜横断のネットワークを組んでいる路線群もある。
南北に直線で結んでいるのは、西から美祢線、山口線、伯備線、播但線、加古川線+舞鶴線である。
斜め横断は2組み合って、一つは芸備線の三次、塩町、備中落合を中継点として、北西から左回りに三江線、芸備線、塩福線、木次線。>もう一つは津山を中継点として、北西から南東に姫新線、南西に津山線、北東に因美線と見ることが出来る。
今回は芸備線と接続している斜め横断路線ネットワークと、津山を中継とするネットワークの西半分に乗るのを目的とする。
木次線は昨年乗っている。最も厄介なのは三江線である。
日のある内に完乗できるのは上下合わせて3往復ある。ただし江津からは6:02の始発、三次からは更に早い5:48になる。当初は新幹線から岡山で特急やくもに乗り換えて江津発15:08か、江津前泊で6:02を考えていた。しかしそれでは三次から先の乗り継ぎが巧くいかない。芸備線も備後落合を挟んだ区間はなかなか手強いのである。
時刻表に散々弄ばれた後で、直通にこだわらずに三次側から乗れば、石見川本で2時間近い待ち時間があるものの、2泊3日で目的を達成した上、伯備線と境港線にも回れることが事が判った。青春18切符を初めて使ってみる事にする。

第2日目/第3日目
第1日
2009/03/01 大阪〜新見〜備後落合〜三次〜福山〜広島

今日の行程は少々手が込んでいる。今回のキーポイント三次に一旦到着するが、塩町に引き返して塩福線を乗り尽くして広島に向かう。三次から三江線を制覇する下準備の一日である。
姫路駅の播但線に車体一杯にペインティングされた車両が停まっていた。車両そのものは環状線で走っているのと同じタイプだ。播但線はロングシートなのか。「かにかにエクスプレス」のような特急で通過したくなる。
大阪から12両の新快速で姫路まで来たが、ここで後部4両が切り離される。
相生で乗り換える車両は更に7両に減っていた。ドアが空くやいなや、全員ホームの反対側に停車している車両めがけて猛ダッシュする。
岡山で、更に後部3両切り離し。厳しい生存競争をくぐり抜けて、ようやく旅に出た気持ちがしてきた。
相生から乗った列車のシート配置がおかしい。転換式のクロスシートなのだが、一部太い窓枠にかかって外が見えない席がある。ボックスシートから変更したものの、車両は元のままなので寸法が合っていない。ドアとドアの間に員数分だけ詰め込んでいるので、不具合のある座席が生まれるようだ。山陽本線の電車はこれが標準のようで、以後も窓の有無に悩まされる。
倉敷から伯備線に入ると左手から高梁川が現れる。滔々と流れる様は大河の風格がある。
新幹線が鉄橋で渡るのを見送ると、川の向こうから茶色の細いトラス橋が現れて、伯備線の頭上を越えて行ったかと思うとぴたりと右側に寄り添ってくる。井原鉄道である。私鉄が廃止した路線を使って国鉄が新線工事をしていたが、JRへの移行時に建設中止。それでも地元自治体が共同して工事を再開し、開通させた3セク線である。国鉄の列車は一度も走ったこと無い路線であるが、次にここを通る時には是非乗ってみたいと思う。
高梁川と共に伯備線も山峡に入る。
川幅が狭まってくる備中高梁で特急に乗り換える。芸備線の新見−備後落合間を昼間に抜けるには新見発12:36の列車に乗るしかない。たった7分の差で普通列車では間に合わない。
備中高梁城が見えるかと目を凝らしたが、右手は崖が迫って何も見えない。
備中高梁からは単線となり方谷駅では特急同士の交換があった。
再び複線区間があらわれて駅名を追う。井倉だった。宮脇さんが線形改良地点として「車窓はテレビより面白い」でレポートしていた事を思い出す。
対岸が迫り景色が良くなってくるが、26分で新見に到着。
新見駅は伯備線、芸備線、新姫線が交わる交通の要衝である。
高梁川が直ぐそばを流れ、駅前には国宝「たまがき書状」の逸話を現した像が置かれている。
新見駅で駅弁を買う予定にしていたが、それらしき店が無い。特急の車内販売限定になっているようだ。仕方がないので喫茶店でランチでも食べようと入りかけると、表に駅弁の見本が置いてある。隣の大阪屋という駅弁屋が経営する喫茶店だった。
駅弁は2種類あったが、おかずの多い方は時間がかかるという事で、普通の幕の内弁当を作ってもらった。

一両のディーゼルカーが入線してきた。昨年木次線で乗ったのと同じタイプである。どうやらこれが中国地方のローカル線の標準らしい。塩福線、三江線、新姫線でも同じ車両だった。
山があって畑が有り、小川が流れている。トタンでくるまれているが藁葺きの家がある。
日本の農村の原風景ような景色だと思っている内に備後落合に到着。
備後落合駅での3列車のサミット。
手前が木次線、右が新見への折り返し列車、真ん中が三次行きである。
備後落合駅で降りる客はいない。乗り換えのためにだけ存在する駅である。それでも乗降客は全部で10人ぐらいだった。
芸備線・木次線は山陰山陽の連絡線ではあるが、このサミットは1日1回だけ。陰陽連絡の機能は全く失われている。
芸備線は新見−備後落合、備後落合−三次、三次−広島に三分割されてそれぞれの区間を往復運転している。木次線のこの列車には昨年宍道から乗ってきたが、折り返して出雲横田で58分も停車する。列車番号が変わるが同じ車両なので実質的には停車である。地元の人は宍道−出雲横田間しか利用しないからクレームは出ないのだろう。
新見−備後落合−出雲横田間は「乗りに来る」人の為にあるようなダイヤになっている。
不便だと文句を言うより、残してくれるだけで有り難いと感謝するべきではないかなどと思う。既に病膏肓に入りつつあるらしい。

備後落合で40分の待ち合わせの後、三次行きが発車する。昨年とは反対に、右下に去っていく木次線を見送る。
『鉄道は川に沿って敷かる。山地を抜けるときは特にそうなる。』とは、宮脇さんの言葉だ。
新見で高梁川と分かれた後は西川、成羽川に沿い、備後落合からは西条川に沿って走る。
伯備線は度々高梁川を横切りトンネルを掘って進むが、芸備線はいったん川に出遭うと同じ側しか走らない。予算をかけて鉄橋やトンネルは作りませんという事だろうか。ローカル線にも格付けがあるようだ。

伯備線や三江線が山峡を突破するのに対して、芸備線は山間の盆地を縫うようにして走る。段々畑ではあるが傾斜が緩やかで、畑一枚の面積も大きい。この辺りの典型、のどかな車窓である。
三次到着。この駅に転車台があった。多数の引き込み線を従えているが現役かどうかは判らない。
広島行きの快速みよしライナーを見送って福塩線に乗る。ここから福山にいったん引き返してから、山陽本線で広島に向かう予定だ。
発車後しばらくしておかしな事に気がついた。これまで列車と同じ方向に流れていた川が反対方向に流れている。備後落合駅は標高452メートルと高いところにあるので、その前後で流れの方向が変わったのは判る。しかし三次から福山へは高度が下がっていく。
地図を見ると、なんと線路に沿って流れているは江の川であった。江の川=島根県の印象が強かったが、源流は広島県側にあった。三次の西には広島市の水瓶となるダムが築かれているは帰ってから知った。なんだ「能なし川」と誹るくせに、江の川が無ければ人口120万の政令指定都市が成り立たないのじゃないか。
更に地図を辿ると、江の川は中国山地の隘路をすり抜けて日本海まで続いてる。分水嶺を抜けて反対側の海にそそいでいる川は珍しいのではないか。岡山の高梁川、旭川、吉井川、広島の太田川、島根の斐伊川、鳥取の日野川等々は総て中国山地で途切れている。
どこまで続いてるかと見れば、上下駅を過ぎてやっと流れの方向が逆転した。三次を発車してから既に1時間が経過していた。
府中からは電化されており、1両だけのディゼルカーから電車に乗り換える。今朝、相生駅から乗ったのと同じ外の見えない窓側席のある車両だった。

福山駅は新幹線で通過するだけで、下車するのは初めてだ。既に日はとっぷりと暮れたのに、広島までまだ2時間も電車に乗らなくてはいけない。駅の北側の福山城は又今度に。

広島は太田川の河口三角州に発達した街で、ホテルも河岸に多く建っている。その一つホテルJALシティ広島に宿泊した。日曜日コースとかで4950円。川に面したゆったり目サイズの部屋だった。
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